試作ネットの使命と未来
● 試作を通じて、京都へ貢献するというのも、試作ネットの大きな活動のテーマです。
佐々木
京都を試作の一大集積地とし、試作産業として確立することで京都に貢献することは、私たちの使命の1つです。そもそも、試作産業というものは一般的な言葉ではありません。通常、食品や金属、繊維、半導体などといった具体的な分野が産業として指されるのが一般的でしょう。ただ、私たちは多様な分野の企業を「試作」というテーマで横串を通すことにより、試作産業という形で発展させていきたいと考えています。
私たちの活動に対して、京都府からは多くの支援をいただいています。そうした支援への恩返しとしても、試作産業を大きく育てることで、京都の産業や経済を活性化させ、貢献していきたいと考えています。
● モノづくり人材の育成にもとり組んでいます。
佐々木
試作ネットでは、拠点に子どもたちを招いて実際にモノづくりを体験してもらったり、工業高校の学生を対象とした講演を継続して取り組んでいます。直近では、京都大学や東京大学、大阪大学の医学部生が中心となって主催する「命若造プロジェクト」にモノづくりのアドバイザー役として参画しました。このプロジェクトでは、中学生・高校生・高専生のチームが大学生コーディネーターとともにヘルスケア課題の解決に取り組んでいます。解決策としてハードウェアを作る必要がある場合、私たちがモノづくりの観点からアドバイスを提供しています。学生が出すアイデアの中には非常に面白い内容も多く、「特許を出願した方が良いかもしれません」といった知的財産関連のアドバイスまで、幅広く対応しています。
これらの取り組みの背景にあるのは、モノづくり産業が今後日本で続いていけるのかという危機感です。担い手がいない場合、モノづくり自体が伝統産業のようになってしまう恐れがあります。若い世代がモノづくりを若い頃から体験し、将来的に職業の選択肢として考えられるようにならないと、高校生や大学生が職業を選ぶ際の選択肢に入らなくなってしまいます。若い世代がモノづくりに興味を持てるよう、私たちは試行錯誤を続けています。
● これから試作ネットをどのように展開していきますか。
佐々木
2022年7月、「世界に期待を超える試作サービスを提供する」という試作ネットのミッションを策定しました。「世界」とはグローバルという意味に加え、幅広くという意味合いも含んでいます。日本国内にも、まだサービスを提供できていない分野や業界があります。国内外で幅広く試作サービスを提供することで、多様な社会課題の解決に寄与しようという思いを込めています。お菓子屋さんやスタートアップ、ベンチャー企業、VCなど、従来は想定していなかった方々ともお付き合いをするようになりました。今後、さらに幅広いニーズに応えていくためには、従来の「京都」という枠組みを超えた他地域や他分野のアクターと連携していかなければなりません。
モノづくりや製造業の進化形を創り出すことも、私たちの重大なミッションの1つです。私が思い描く製造業の進化形とは、毎日少々汚れることはあっても、社員が未来を創り出せると感じたり、やりがいを持てるような仕事のことです。それを実現するため、「私たちも社会課題を解決するメンバーの一人なんだ」と感じられるような、社会課題解決のための試作や、社会課題解決を目指す人や企業に対して試作を通じた伴走支援などに取り組んでいます。
「そんなことをして儲かるの?」「事業としてやっていけるの?」と懐疑的に見る人も少なからずいます。私も、社会課題の解決だけで儲かるとは思っていません。ただ、それに取り組むことで、どのようにすれば事業の収益性を上げられるのか、また、ビジネスとして成り立たせることができるのかなど、試作ネットの主目的である事業創造のための試行錯誤の機会になると考えています。
また、一番大切なのは、取り組んだ社員が「世の中の役に立っている」と実感できる仕事をすることです。これは、大手企業からの指示で従事する従来の下請け構造より、社員のモチベーションを大きく向上させる仕事だといえます。「世界を変える」という大げさなことは言いません。ただ、モノづくり業界に一石を投じることが私たちにできることだと信じています。これからの試作ネットにぜひご期待ください。

